アンブレラ・レイラ

アンブレラ・レイラ 17

真相にこそ辿り着かなかったものの、同時に探っていた東南眼鏡の正体は知ることが出来た。ある程度の達成感はあったが、それよりもリリオを支配していたものは居心地の悪さだった。大人の世界を無理やりに覗かされたような気分。

大人も悩み、迷い、失敗してしまうのだ、という当たり前のことが不快感を伴う新発見としてリリオを窮屈な気持ちにさせた。どこかで大人になれば悩みなどなくなってしまうものだと思っていたようだ。しかも、その話の内容というのが、もちろん全てを理解できたわけではなかったが、どこか空恐ろしく感じるものに感じた。

様々な感情が行ったり来たりとしたが、最終的にリリオは自分を恥じた。

奇妙な老婆、おかしな人間、と決め付けていたレイラにはレイラなりの事情があったのだ。

自分も同じだと思った。

今の自分は確かに他の誰から見たらおかしな人間に映るだろう。しかし、そんな自分にも自分なりの事情がある。もしも、自分の行動を誰かに観察されていたら――リリオはこれ以上レイラのことに首を突っ込むことは辞めたほうがいいかもしれないと思ってしまった。すると、体が震えるほどの寒気に襲われた。

……やることが何もなくなってしまう……この四角い部屋の中で一日中じっと息をするだけの生活を送らなければならなくなってしまう。

震えはみるみるうちに大きくなっていった。

そんなリリオに助け舟を出してくれたのはまたも東南眼鏡だった。

「君が気にしていた家の中の様子だけれどね、傘はしっかり折りたたんで山のように積んであるんだ。遠慮しなくていい。気になることは聞いてくれ。私も知りたい。これからも観察を続けてくれないか?」

 今にも涙が零れ落ちてしまいそうだった。その発言の全てが優しさであることに気付けたことも嬉しかった。まだ自分は大丈夫かもしれない、と思えたのだ。お礼を言おうとするが、泣いてしまいそうなので何も言えなくなってしまう。

「……学校、行ってないんだって?」

唐突に聞かれたため、心臓が鈍い悲鳴を上げた。

「何か嫌なことでもあったのかい?」
激しい鼓動のせいで涙は引っ込んだが何も答えられなかった。

「私に話してみないかい? お母さんや友達には話せなくても、東南眼鏡になら話せるかもしれないだろ? 私にも息子がいるんだ。君よりずっと小さいけれどね」
 
リリオには誰にも言っていないことがあった。それはこの四ヶ月間をかけてリリオの中で熟成され、さらに巨大化し、誰にも言えないが故に誰でもいいから聞いて欲しい、という歪なものに成長していた。それ故、ダムが小さなヒビから決壊するように「実は……」の一語から、リリオは全てを涙と共に吐き出した。

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