アンブレラ・レイラ

アンブレラ・レイラ 15

電話が鳴ったのは昼過ぎだった。

初めのうちは手の込んだ悪戯か何かだと怪しんでいた東南眼鏡も三通目の手紙飛行機を受け取ったときにリリオの姿を窓越しに確認し、本当に小学生であったことに警戒を解き、五通目の手紙飛行機で連絡先を交換することとなった。

そのやり取りの中でリリオが彼に伝えたことは
「レイラのことが気になっていること」
「自分が不登校であること」
そして、
「レイラのことを調べることによって外に出られるのではないか? と考えていること」

久しぶりに他人とコミュニケーションを取ったのにも関わらず、リリオは思いのほか饒舌、いや饒筆だった。歪な方法であることは自覚していたが、それが逆に功を奏したのだろう。他人であることも手伝って自分の悩みまで吐露することができた。

ただ、さすがに彼のことを東南眼鏡と呼んでいると告白したときは怒られるのではなないかと萎縮してしまったが、彼は“そのまま呼んでくれてかかまわない(笑)”と返信してくれた。それが無性に嬉しかった。

リリオが彼から聞けたことは連絡先のみだ。
そして、彼のほうから詳しくは電話で話そうという提案があり、リリオが翌日の母親が仕事に行っている時間帯を指定し、今に至るのだった。

リリオが一睡もせずに今この瞬間まで待っていたのは言うまでもない。電話とはいえ他人と話すこと自体が引きこもって以来初のことなのだ。

 実際、リリオは電話のコール音が四度も鳴っているのにも関わらず電話機の前で体を硬直させてしまっていた。目の前にあるはずの受話器がいくら手を伸ばしても届かないほど遠く感じられるのだ。それでも“このままじゃ駄目だ”と思い続ける脳は、さらに腕を伸ばせ、と命令を送ってくる。
ようやく受話器に触れることができたのはコール音が十三回を数えたときだった。
しかし、体の硬直は解けることが無かった。たかだか電話に出るだけでこれほどの勇気が必要になるほど弱ってしまった自分が今更ながらカッコ悪く思えた。気付くと瞳に涙が溜まっていた。
泣くもんか。こんなことで泣くもんか。
そう言い聞かせている間もコール音は続いている。
受話器を上げられたのは十八コール目だった。
受話器をゆっくりと耳に押し付ける。しかし、声が出ない。もしもし、がどうしても出てこないのだ。
結局、先に声を発したのは東南眼鏡だ。
「はじめまして……ではないか。東南眼鏡です、なんてね」
その声の柔らかさに少しだけではあるが平静を取り戻すことができたが、次の言葉が出てくるまでには至らなかった。
それを察したのかまたも東南眼鏡から話しかけてくれた。
「えーと、昨日の紙飛行機に書いてあったけれど、君はアンブレラ・レイラの傘のことが気になっているんだよね? それで私ならば知っているのではないか、と?」

「……は……い」

たった二文字の言葉でも胃液を吐き出すように出した言葉。

「本当ならね、他人の君にこんなことを話したくはないんだ。でも、君の事情も知ったので協力してあげたいと思って電話を掛けている。実はね、アンブレラ・レイラと呼ばれているあの女性は……」

電話越しに東南眼鏡が息を飲む音が聞こえた。

リリオの体に緊張が走る。

「……僕の母親なんだ」

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