アンブレラ・レイラ

アンブレラ・レイラ 14

 苦節九日、ようやく理想形の紙飛行機が完成を向かえた。
完成した紙飛行機を眺めながら苦しくも充実したこの日々を思い返した。

あの日、思いついた連絡方法【手紙飛行機】とは手紙付きの紙飛行機を釣餌の要領で釣り針に刺し、それを東南眼鏡に向けて飛ばして、内容を確認した彼に返信を書いてもらい、リールで巻き取るという連絡方法だった。

この九日間で百枚を優に超える数の手紙飛行機を折った。
様々な困難がそこにあった。
試作品第一号はノートの紙だったので、釣り針の重さに負けて一直線に落ちてしまった。そこでボディを厚紙に切り替えた。しかし、それでも意図していないところで旋回してしまったり、飛距離が伸びなかったりと、今度は折り方の問題が浮上してきた。
試行錯誤を繰り返し、安定性と飛距離を同居する折り方をリリオが突き止めたのは今から三日前のことだ。

その日はちょうど東南眼鏡の来訪日と重なっていた。

リリオはまさに思いを乗せた手紙飛行機を東南眼鏡に投げ飛ばした。

手紙飛行機は東南眼鏡のちょうど足元に綺麗に着地して見せた。

ここ数ヶ月で最も興奮した瞬間だった。

しかし、あまりにも綺麗に着地してしまったがために、東南眼鏡は足元に落ちた手紙飛行機に気付かなかった。

そのときの落胆は酷かった。

しかし、リリオはその困難にも負けず、さらなる手紙飛行機の進化系を模索した。ジッとしているとその落胆が深まることを経験から誰よりも知っていたのだ。

そして、今日、完成した手紙飛行機に“最高傑作”と太鼓判を押すことができた。

使った紙はやはり厚紙。飛距離を伸ばすために折り方は通常のものより幾分スリムだ。翼の部分を二重に折っているところがミソだとリリオは考えている。その先端は安定性向上のために錘の意味も込めてボンドで固定した。
そのボンドには小さな鈴が付けてある。鈴は錘と同時に落ちたときに音がするような細工だ。当然、それは東南眼鏡に気付いてもらうために他ならない。

成功するに決まっている!

リリオは努力の結晶である鋭い流線型の手紙飛行機を見て思わす悦に入ってしまう。あとは東南眼鏡の来訪日を待つのみ。しかも、今までの経験から予測すると、今日、来訪する可能性は極めて高い。
リリオは静かに夜を待った。

 
ビンゴ。
東南眼鏡が中庭に入ると同時に釣り針に手紙飛行機を装着し、釣竿を構えながら街灯に向けた双眼鏡を覗く。

五分が経った。

東南眼鏡はもうすぐ中庭から戻ってくるだろう。

窓を開ける。風はない。絶好の紙飛行機日和だ。

今回も徒労に終わってしまった場合は他の手段を考えるしかない。この手紙飛行機以上の性能のものを作り出す手段をリリオは持っていないのだ。

深い息を吐きながら精神統一して手紙飛行機を窓の外に向けて構えた。

双眼鏡の円の下に東南眼鏡の頭を確認した。

双眼鏡を顔から離すと、手紙飛行機の胴体を親指と人差し指で優しくつまんだ。

深呼吸を一つすると、水平に手を引き、優しく手紙飛行機をリリースした。

手紙飛行機は真っ直ぐに飛んでいく。今のところ理想の動線を描いている。

リリオは改めて双眼鏡を構えた。

そのとき強い風が吹いた。

冷や汗が吹き出たが、リリオの最高傑作はそんな風をものともしなかった。

そして、目論見通り、東南眼鏡のその少し先にシャリンと鈴の音を立てて着地した。

その音で東南眼鏡も手紙飛行機の存在に気づいた。

しばらく手紙飛行機を眺めると、飛んできた方向、つまりリリオの部屋に目を向けた。双眼鏡越しにリリオと東南眼鏡の目が合った。

その瞬間にリリオは慌ててカーテンに包まり顔を隠してしまった。久しぶりに人と目を合わせたからか、激しい緊張感に襲われたのだ。

カーテンの隙間からこっそりと東南眼鏡を確認する。彼はその手紙飛行機と自分が関係ないものと思ったようで、それを跨いで歩き始めてしまった。

こんなことに勇気が必要なことが情けないとは思ったが、乾いた雑巾を絞って水滴を垂らすようにリリオは勇気を振り絞り、足の震えを押さえつけながらカーテンから顔を出し、リールを軽く巻いた。

手紙飛行機はシャリンと鈴の音を立てる。

東南眼鏡は振り向き、手紙飛行機を確認すると、リリオの部屋に再度目を向けた。

リリオは逃げなかった。少しでも何かを変えるためにリリオは東南眼鏡の顔をじっと見てリールを小刻みに撒き続けた。
ようやく東南眼鏡は手紙飛行機を手に取った。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です