アンブレラ・レイラ

アンブレラ・レイラ 9


 さらに一週間が過ぎた。
相変わらずリリオは自室から双眼鏡を構え、及び東南眼鏡の観察に精を出していた。

この一週間で母親が旅行に行っていたあの日も含め、東南眼鏡は合計三回、レイラ宅を、柊タワーハイツを折り返し地点にして往復した。
未だに解けない謎のヒントの一端はないか、と観察を続けるが新たな収穫はなし。
たった今も双眼鏡越しにレイラがいつものように自転車に乗って街へと傘を収集しに行く姿から何かを見出そうとするが中々どうして変化はない。

双眼鏡越しに眺めている主のいないカーテンの締め切られた部屋の光景は代わり映えが無さ過ぎるものだったが、リリオはその光景から目が離せなくなってしまっていた。

ここ数日、何度も頭に過ぎっていたことがあった。

“レイラは十時から十七時まで帰ってこない。ならばいっそ忍び込んでみるのはどうだろうか?”

しかし、その度に“不可能だ”と打ち消す。
まるで稽古を重ねた漫才のようにそんな決まりきった問答をこの数日間繰り返していたのだった。
 今もまたオチの無い漫才を頭の中でしているのだが、リリオは思わず目を疑った。

昼間にも関わらず東南眼鏡が現れたのだ。

スーツではなくポロシャツにジーンズといったラフな格好をしていたので人違いかとも思ったが、その黒縁眼鏡と浅黒い顔をこんな太陽の下で見紛うはずもない。
さらに、そのままいつものようにレイラ宅を通り過ぎていくのか、と思っていたが、なんとレイラ宅の前で立ち止まったではないか。

観察を始めてから三ヶ月弱、ようやく待ち待った変化が訪れるのかもしれない。

東南眼鏡はさらにレイラ宅へ近づいていく。

双眼鏡を持つ手がじんわりと汗ばんでいくのがわかった。

盗難眼鏡はそのドアをノックした。

何が起きるのだろうか? 

ゴクリと唾を飲み込んだ。
しかし、次の瞬間、弾けるように窓から顔を引っ込めてしまった。

見覚えのある顔が双眼鏡の脇に入り込んできたのだ。
クラスメイトの一人だ。

「……今日は日曜日か」
小さな声で呟いて、大きなため息を一つ吐くと、壁に貼ってある大きな一年カレンダーに目を向けた。

今日の日付から四ヶ月間、土日祝日を除いた日全てに×印が付いていた。

それはリリオが成し遂げることが出来なかったたびに自らサインペンで付けた印だ。

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