アンブレラ・レイラ

アンブレラ・レイラ 8

間取りは決して狭くはないが、だからといってたいした距離があるわけでもない。
しかし、居間に着いて中庭を見下ろせる位置まで来た頃には極度の緊張からか息が上がっていた。呼吸を整えながらカーテンの隙間に双眼鏡をすっと差し入れ覗き込む。
中庭には誰もいない。
リリオの部屋から居間までと、エントランスホールから中庭まででの距離を考えるとタイムラグがあって当然だ……が、頭でそう思っていても、再び部屋に戻って街灯の下に双眼鏡を向けたい欲求が高まってきてしまう。
その思いを何とか押さえつけながらリリオは中庭を見続けた。
誰もいない中庭を見ている時間は焦りしか生まなかった。
こうやっている最中にも東南眼鏡が街灯の下を通っているかもしれない。その向かう先が中庭だったらいい。結果としてここで確認できるのだ。ただ、たとえば他の部屋や、エントランスホールに目的があったとしたら……どうしてもマイナス方向に思考が進むが、リリオは小さくガッツポーズを取った。
東南眼鏡が中庭に入ってきたのだ。やはり、先ほどの人影は東南眼鏡だった。こみ上げてくる嬉しさを腹の中に留め、リリオは東南眼鏡の一挙手一投足の全てを逃すまいと瞬きすら我慢して彼の様子を窺う。
東南眼鏡は中庭のベンチに腰掛けると携帯電話を取り出し、なにやら操作を始めた。その動作は携帯でどこかに連絡を取るのではなく、手持ち無沙汰から来る行動に感じられた。そして、携帯電話を三分少々いじると立ち上がり中庭から出て行った。
リリオも後を追うように自室に戻り街灯の下を双眼鏡で覗き見る。少し遅れてやってきた東南眼鏡はスタスタと歩きつつもやはりレイラ宅を気にしながら双眼鏡の可視エリアから暗闇へと去っていった。

……東南眼鏡の目的は間違いなくレイラだ!

確信すると新たな謎が生まれた。
リリオは勉強机の前に腰掛けると観察日記を開き、新たなページを作る。

【考察・東南眼鏡の動機とは?】
・ 自分同様、レイラの秘密が気になったのだろうか?
しかし、大の大人が気になった程度で週ニ、三回もカーテンが閉まった部屋を外側から覗き見るためだけにやってくるだろうか?
もしかしたら僕の知らない関係性が二人の間にあるのかもしれない。

相変わらず「?」は多かったが、考察が前回よりも進んでいることにリリオのペンを動かす手は躍動感に溢れていた。

新たな観察対象・東南眼鏡と主たる観察対象・レイラとの関係性を解明していきたいと心から思った。それはとても刺激的なことに思えた。

同時に、もしかしたら自分の現状を打破してくれるきっかけになるのではないか? という淡い期待が胸に去来した。

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