アンブレラ・レイラ

アンブレラ・レイラ 5

「アンブレラ・レイラ観察日記」を付け始めてから二週間が経過した。
観察を続ければ続けるほど謎は深まるばかりだった。
観察日記には、外出時間、帰宅時間、そして、毎日の持って帰ってきた傘の本数を書き記していった。その総数は十四日で、骨組みだけのものや、折れてしまっているものも含めれば、六十三本にも上った。
なぜ、レイラはこんなにも傘が必要なのだろう? 頭の中は相変わらずそのことばかりだった。唯一つの変化は、レイラ、と略して呼んでいることくらいだ。
 
本日分の観察結果を付け終えたリリオはページを捲り、その冒頭に【考察・レイラの傘の使用方法とは?】と綴り、思いつくままにその候補を箇条書きしていった。
すると、家が雨漏りしている、なんて馬鹿げたものまで含めるとその候補は十を超えた。
さらなる検討の結果――もちろんリリオ一人でだが――最終的に三つの候補に絞ることができた。リリオのペンは次に【最終候補・まとめ】と動き、その考察をノート上でさらに深めてく。

【候補1・傘コレクター】
・ 理解は出来ずとも理にはかなっている。僕だって何が嬉しいのか、小さい頃は牛乳瓶の蓋なんてものを集めていた。つまり、集めてしまったが故に集めているのではないか? 確かに傘の種類は豊富で全く同じものを捜すことのほうが難しいほど千差万別だ。収集に熱が入るのも頷ける。※ただし、レイラは大人。

【候補2・リサイクル1】
・ 傘を修理、清掃し、もう一度、傘として使用する。もしくは譲渡・販売する。
・ 本人が使用の場合 → 明らかに自分で使うだけの量は遥かに超えているのではないか? 故にこの案の可能性は低いと思われる。
・ 譲渡・販売の場合 → 理にかなっていないこともないが、観察を始めて数週間が過ぎたがレイラが傘を誰かに販売したり、譲渡したりした場面は皆無である。可能性は低いと思われるが、もしかしたら突然の雨のときなどに傘を持ってどこかへ譲渡・販売をしに行くことがないとは言えない。

【候補3・リサイクル2】
・ 使い古しの切符や定期券が駅構内にあるベンチに化けるように、傘を何か違ったものに、もしくは、違った方法で再利用しているのではないか?

 ここまで書いてはみたが、リリオは書く前から【候補3・リサイクル2】が正解ではないか? と睨んでいた。彼女が傘を拾って帰ってくるときの表情があまりに真剣でコレクター特有の喜々としたものが一切読み取れないからだ。しかし、そうはいうものの“再利用方法とはなんだろうか?”と考えると思考が行き止ってしまう。
そこで、新たに【考察・傘で雨を防ぐ以外にできること ※注・大量に使う】といったページも作ってみた……が、やはり先ほどのようにすらすらと書くことはできない。それでもリリオは引きずるようにペンを走らせた。

【考察・傘で雨を防ぐ以外にできること ※注・大量に使う】
・ 傘の材料から考察。
ビニールと鉄とプラスチックと特に変わったものを使っているわけではない。つまり、材料が欲しいだけならば傘でなければならないという理由としては弱い。

・ 傘のフォルムが重要?
傘の材料に特異なものがないならば、傘特有のあの唯一無二のフォルムがレイラには必要なのだろう。

・ 傘のフォルムから考察。 ※あの形でしか作れないものとは?
※傘の持ち手の部分について。
すぐには思い浮かばないが、傘なんてそれさえなければただの棒に過ぎない。引っ掛けることができることが何かに利用できるかもしれない。詳細はまた改めて考えよう
※傘が開くという構造について。
棒状から開いた状態への形態変化をすることが必要? こちらも今後のリサーチ次第で重要になってくるかもしれない。

番外編
レイラは芸術家。いつだかTVで、出がらしのコーヒーかすを用いてオブジェを作る芸術家を見たことがある。リサイクルといっても有用なものと決まったわけではない。つまり、レイラは芸術家で傘を利用した芸術作品を作っているのでは?

残念ながらスマートな考察とはならなかった。考察を進めれば進めるほど「?」だらけになってしまうのだ。書く手を止めたリリオは唇と鼻との間にペンを挟み唸った。ますます深まる謎に好奇心は際限なく膨れ上がっていく。
……明日からも、この部屋からレイラを観察しなくては。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です