藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 28

尻餅をつきながら放心していると、目の前に“口”がふっと浮かび上がってきた。ずいぶんと不思議な環境にずっとおかれていたが、叫ばすにはいられないほど恐ろしい光景だった。
「この俺は摩訶不思議」
 そして、その口は歌い出した。
「そこらのやつとは偉大さが違うのさ」
 わかっている。驚きはしたが、その正体には検討がついていた。
 口の周りに輪郭が現れ、次にふさふざのピンク色で縞模様のついたしっぽが現れた。しっぽ二、三度回転すると、予想通り猫が空中に現れた。おじさんの寝転び、くつろぐピンク色の狸にも似た猫は大きな声で笑った。
「にゃにゃにゃにゃにゃ」
稚拙な例えになってしまうが、まさに猫の笑い声だった。声が収まってもピンク色の猫はにっこりと笑っている。
「……チシャ猫ね?」
「ご名答。馬鹿っぽくみえたけど、意外と鋭くて驚かされたにゃ。ともかく夏神組子。ようこそ。フジキの国に!」
 ひょうきんなその態度にこわばりがとれ、組子はようやく立ち上がり、おしりについた土を払った。
「なんで私の名前を知っているの?」
 他にも聞くべきことがあるような気もしたが、先に気になった質問をぶつけた。
「そうか。フルネームはちょっと他人行儀すぎたかにゃ? それでは組子。君が忘れたいと願ったのは“子供の頃、飼っていたハムスターのハム子をちゃんと面倒見れなかったこと”だったにゃ?」
 質問には一切答える気はないようだ。しかも、心が重くなるようなことまで言ってくる始末。猫は好きだが、目の前の狸じじいのようなこの猫のことは好きになれそうもなかった。
 チシャ猫はすうっと風景に同化するように消えると、組子の真後ろに現れた。
「組子がこの通路の先だ」
 指さされた方向を見ると、先ほどまでなかった切りそろえられた植木でできた巨大な迷路が現れていた。
「それじゃ、鍵穴に鍵をさして、カチャリと音が鳴るまで回すにゃ」
「何の話?」
「ハート2だから、簡単にゃー。今回は初回だから矢印のサービス付きだにゃ」
 すると、足下に大きな矢印が出現した。
 矢印は2メートル程度の感覚で先に続き、迷路の中へと誘っている。

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