藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 26

びしょびしょに濡れてしまったが、頭はまだ冷静をぎりぎり保てており、大きな少女が本当は小さな少女であることに気づけた。
少女が大きかったのではない。自分が小さかったのだ。
ポケットに入れておいたケーキは見るも無惨な姿であったが、意を決してそれを口に入れた。酷い味がしたが、なんとか飲み込めた。アニメではおいしそうだったことを思い出すと、少し腹が立った。
なぜ、ケーキを食べたかというと、アリスの序盤で出てくるアイテムに大きくなるケーキというものがあるのだ。組子はそれを覚えており、アリスと同じ轍を踏まぬよう部屋を出てから口にしたのだった。
予想通り、みるみる大きくなり子供の背を追い越して、ちょうどいい塩梅でおちついた。そう、食べ過ぎてもよくないのだ。
先ほどまで見上げていた少女を見下ろすと、うつむいたまま泣いていた。
正直なところそれどころではなかったのだが、放っておくこともできず、また、他に何をすればよいのかもわからなかったので、少女の頭を一度撫でてみた。
質感、温度。
確かに少女はそこにいる。
ため息を一つつき、尋ねた。
「どうして泣いているの?」
 本当は自分に何が起きているのか、ここはどこなのか、なんてことを聞きたかったが、まずは泣き止んでもらうことが先決だと思った。
「おうちに帰りたいの……パパとママに会いたいの」
 そう言って少女はまた泣いた。
 さしあたりコミュニケーションがとれることには安堵した。
 少しずつ泣き止んでいる気がした。
組子は少女の頭を優しく撫でた。
「お名前は?」
「名前? ……ありす」
 ありすはようやく顔を上げた。
 その顔はなぜか笑顔だった。先ほどの大粒の涙と似つかわしくないその表情に小さな恐怖が芽生えた。
ありすは綺麗な青い服を着たかわいらしい少女だった。ただ、アリスというよりはディズニーランドでコスプレしている子供といった印象だった。あくまで日本人なのだ。
泣きはらしたはずの目は瀬戸物のように美しく、どこまで黒く深い。

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