裕次郎

アンダーハーツより愛を込めて 立ち読み 8


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ネットショップにだいぶ前に自費で作成した小説を追加しました。

立ち読み1

立ち読み2

立ち読み3

立ち読み4

立ち読み5

立ち読み6

立ち読み7

立ち読み8回目です。

自費出版の本なので立ち読み多め!

 

立ち読み8

そういえばもうすぐパイナップルマートに新人が入るらしい。深夜は龍之介が戻ってこられるかどうかは正直わからないが、はっきりするまでは雇わずに店長がちょくちょく入るようなので、新たに雇ったのは店長が抜ける分の夕方から夜にかけての人とのこと。
 経営者として最良の判断かどうかはオレにはわからないが、人間として、龍之介と交流を持つ者としては素敵な判断である、と感じる。当然店長には今まで以上の負担がかかるだろう。オレの負担も多少は増える。だけど、何か少しでも力になれるならばオレだって嬉しい。きっと店長もそうなのだろう。店長は良い人だ。見た目は冴えないおっさんだがバイトやパートの誰かが困っていると必ず気にかけてくれて相手が負い目を感じない程度に手助けをしてくれる。この世の中では損することが多そうな性格ではあるがそれでもオレは出来るならばああありたいと思う。さりげない優しさ、なんて言うと馬鹿な女の好きなタイプみたいな印象になってしまうからあえて、押し付けでない優しさ、と言いたい。だって「さりげない優しさがいいのよねぇ」なんて言っている女の話を男が聞くと大抵がさりげなくもなんともないからね。
 ……龍之介、大丈夫だろうか。……大丈夫なわけないか。

 新人が入る初日。
そのためにオレはいつもより少しだけ早起きをした。どうやら昨日店長が夜勤だったためオレがいろいろと教えなければならないらしいのだ。いつもは八時か十時からなのだが今日は五時からバイト。……眠い。だるい。かったるい。けどまぁ行っちまえばなんとかなる。
 原付のエンジンが一発でかからない季節になってきた。夜間の運転ならばそろそろ手袋が欲しくなる。とりあえず今日は素手で二、三度セルスイッチを押してエンジンをかけ、走り出した。
 そういえば新人の情報を全く聞いていない。深夜の奴じゃないから関わることもないと思っていたし、例え関わったとしても入れ替わりのときの一瞬だろうと思っていたから。
男だろうか、女だろうか……。どっちかといったらやはり女の子のが良いかな。出来れば可愛い子のが……。だって女の子に越したことはないし、それだったら可愛いに越したことはないだろう。別にアレするわけじゃないが、それでもやっぱアレだしね。
……最悪なことに少し浮ついた瞬間に三年前別れた彼女を思い出してしまった。鉄アレイを海に沈めるスピードで気分が沈む。いつだか聞いた風の噂によると新しい彼氏がいるらしい。本当のことを言うと“思い出してしまった”という言葉は適切ではない。情けないことにオレはこの三年間のほとんどの時間を彼女のことを考えることに費やしていた。彼女の笑顔を思い描く度に心臓がジグジグと痛み、彼女の声を頭の中で再生する度に脳がキリキリと締め付けられた。それでも自動的に行ってしまう行為を止めることは出来なかった。その術が見つからなかった。もう一度彼女と、なんて気はさらさらないのだがオレの知らない誰かとアレしたりコレしたりしていると思うと胸が締め付けられるような、別にどうでもいいような、そんな、なんだか形容しがたい気持ちになってしまう。
 寝ているとき、くだらないテレビ番組を見ているとき、レジに客が並んでいるとき等は彼女のことを思い出さずにいられる。そんなときだけ精神が安定している。きっとだからオレはこれがいい、と思えるのだ。
 ……新人はやっぱり男がいいな。それもラグビー部とかのゴリゴリの奴がいい。なにしろ風船に鉄アレイ付けて飛ばすようなものなんだ。バイト中に浮つくたびに凹んでいたらきりがない。恋はもうしたくない。本気でそう思う自分は嫌だけれど、あの手の苦しみはもう二度と御免だ。

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