小説紹介(裕次郎)

アンダーハーツより愛を込めて 立ち読み 6


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ネットショップにだいぶ前に自費で作成した小説を追加しました。

立ち読み1

立ち読み2

立ち読み3

立ち読み4

立ち読み5

立ち読み6回目です。

自費出版の本なので立ち読み多めにします!

 

立ち読み6

龍之介の母親の胃に癌が発見されたのはつい最近のことだった。バイト仲間というだけでありプライベートで遊ぶような仲ではないので龍之介の家族については、母子家庭である、ということを知っている程度だ。
ただ龍之介と話していると時々母親の話が出てくることがあった。龍之介くらいの年齢の男には珍しいことかもしれないが、異常に母親が好きである、とかそういった印象は全く受けなかった。むしろ顔つき、言葉の端々、そして素直に育っている、という点から母親を大事にしているのだな、ということがその全てから読み取れた。
龍之介の母親が亡くなったのは奴が大遅刻した日から一ヶ月程たったころのこと。それは龍之介が19歳になる三日前のことだった。
何も知らなかったオレは誕生日の前日に予定はあるのか? 彼女はいないのか? なんて話題をずっと話していたのを覚えている。自分としてはなんとなく元気のない龍之介を励ましてやるような気持ちからの行動だったのだが、龍之介の誕生日から一週間過ぎた今日、店長にその事実を聞かされて知った今は思い返すだけで胸が痛む。
店長も先ほど今月のシフトのことで電話した際、そのことを知ったとのこと。龍之介は気丈にもはっきりとした声で話してくれたという。しかし、しばらくはバイトを休むことになった。
深夜二時を過ぎたコンビニは相変わらず暇でチャラけた流行歌がリフレインしているだけで、その他には一切の音がない。そういったときはくだらないことから人生のこと、まぁオレの人生もくだらないかもしれないが、ともかく様々なことを頭の中で議論したりする。差し詰め一人討論会と言ったところか。レジ奥の壁に寄りかかりその一人討論会の延長線のような感じでぼんやりと龍之介の気持ちを想像してみた。
高校卒業したばかりで唯一の肉親である母親を癌で亡くす。それはいったいどういう気持ちなのだろうか……? いや、わかっている、考えたからといって本当に気持ちがわかるわけはないということくらい百も承知だ。むしろ想像して安易に同情心を持つこと自体が失礼なことなのかもしれない。しかし、わかってやりたい、わかろうとするということには少しは意味があるかもしれないとは思うのだ。だから想像を続けてみた。
……きっと冷静ではいられないだろう。悲しみが大き過ぎてしっかり受け止められるだけのキャパなんて龍之介の若さじゃまず無理だ。差し詰めバスケットゴールに大玉送りの玉を入れるようなものだ。入るわけがない。そんな魔法染みた荒業なんて当然オレにだって出来やしない。不可能だ。頭では人は絶対に死ぬ生き物であり、親が子よりも早く死ぬことは珍しいことではない、なんてことはわかっているし、ドラマやドキュメント番組かなんかでもそういった状況は何度も見て知っている。だからといって実際に起きてしまったら達観なんて出来るわけはない。耳かき一杯も納得いくわけはないだろう。特にオレなんて両祖父母とも健在で今まで身近な人が死んだことすらないのだ。
ふと朝見たニュースを思い出した。それはとある列強国の兵士が中東で民間人の一家を射殺した、というものだった。しかも、その兵士はまず両親を撃ち殺し、まだ十代前半の娘をレイプした挙句射殺したとのこと。
龍之介の苦しさと、殺された両親の遺体の目の前ですぐに自分も殺されるだろうと思いながらレイプされる娘の苦しさ。
オレは初めて気付いた。
“悲しみや不幸は比べるものじゃねぇんだな”

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