藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 22

「泰葉! やっぱりやだ! やめる!」
唯一動く口で叫ぶが、泰葉はニコニコと笑っていた。
「泰葉? ちゃんと話し合おう? 私に悪いところがあったら謝るし……ううん、本当は私も悪いと思っているの……でもね、私も本当好きだったから我慢ができなくて……泰葉のことも本当に好きなの! だからずっと苦しくて……」
「組子? 何言っているの? 怖がらなくて平気だよ?」
泰葉は言いながら、先ほど書いたアンケート用紙の束を持って、組子の目の前から離れ、傍らの機械にセットした。カチャカチャといくつかボタンを押すと、複合コピー機のようにアンケート用紙は一枚一枚高速で機械の中へ吸い込まれていった。
「住所と名前と生年月日は私が入れておくね」
「泰葉、話し合おうよ!」
「心配しなくて大丈夫だって。この記憶ならきっとハートの2くらいだからさ。組子の運動神経なら大丈夫。確かにハムスターはかわいそうだけどさ、この手の記憶はいろんな人が乗り越えているから意外とハートは弱いんだ。それにほら、おじさんの価値観にも影響されるの。安心して。おじさんは動物を愛でるようなタイプじゃないから。それじゃ頑張ってね」
頭上からモーター音が聞こえてきた。固定されているので首の稼動域は狭く上目遣いのような形で頭上を確認すると、先ほど泰葉が被らされていたヘルメットが下りてきている。駄目。この状態で目隠しされてしまうなんて……生きた心地がしない。
しかし、ヘルメットから抗う術は全て封じられていた。
涙混じりの老人の声が聞こえる。
「えっと、組子さんだったっけ? ううぅ。相手はハートの2だよ。きっと出来るさ。ううぅ。羨ましいなぁ。私もこの悲しみを忘れてしまいた……でも……それだけは……ああ、組子さん……ありすによろしく伝えてください。あぁううう」
ヘルメットはもう頭の先を隠していた。
「泰葉、やだ。怖い。やっぱりやめる!」
ヘルメットが目を隠し、視界が真っ暗になった。
いや、目を閉じてしまったのだ。
「組子! あっちに行ったらね、テーブルの上に鍵があるからそれを取って、なんとか外へ出て。そしたらあとはチシャ猫の指示に従ってね! 嫌味っぽいけど、たぶん良い奴だから心配いらないよ」
モーター音が消えた。鼻まですっぽりとヘルメットを被ってしまったのだ。
「泰葉ぁ! 行ったらってなあに? どこに行くっていうの!」
「ありすちゃんに会ったら優しくしてあげてね! あの子は純粋な子よ。それじゃ、行ってらっしゃい!」