藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 21

「できた?」
ペンの止まっていた組子に気付いた泰葉が声をかけてきた。
頷くと近寄ってきた泰葉にくせになのか、紙の束を一応、裏返しにして渡した。
「……これをいったいどうするの?」
「あのね、おじさんはさ、今はあんな感じなんだけど、昔は物凄く優秀な人だったんだって。コンピュータープログラムの天才だったんだとか。いや、私もそのときのおじさんのことは知らないんだけどね。だけど、まあ、色々あってね、今はこうやって眠っているとき以外ずっと泣いているの。それで、その色々あった“色々”をなんとかおじさんなりに解決しようとして作ったのがこの装置なの」
この説明で一体誰がわかるというのだろうか?
「えっと、おじさんはずっと泣いているから、その“色々”は解決できなかったってことじゃないの?」
「うーん、それは少し難しい質問だけど、私は解決させたと思っているわ。皆はおかしくなったって言っているけれど、私はおじさんの決断は間違っていなかったと思うの。だって、おじさんが決めることだからさ」
「……あのさ、泰葉は私のことをからっているの?」
「違うって。まあ、いいから。ともかくやってみよう。何か忘れたいことある? でも初めだからさ、簡単なものにしないと駄目だよ。大変なことになっちゃうから」
忘れてしまいたい過去で、簡単なもの……以外と難しい問いだった。
しばらく悩み、頭に思い浮かんだのは子供の頃に飼っていたハムスターに餌をやり忘れて衰弱させてしまったこと。その後、しっかり栄養満点の餌を上げて元気を取り戻したことは取り戻したのだけど、それからしばらくしてハムスターが死んでしまった際に、どうしても自分を責めてしまった。今となってはその因果関係はわからないけれども、確かにそのハムスターは平均寿命よりも早く亡くなってしまったのだ。
そのことを泰葉に話すと「よし、それにしよう」と笑顔を見せてくれた。
「じゃあ、こっちに来て!」
言われるがままついていくと、先ほど泰葉が括りつけられていた椅子に座らされた。
「いい加減教えて? 何が起きるの?」
「大丈夫、大丈夫」
泰葉が笑顔のまま組子の肩を叩くと、ガシャンという音が聞こえた。音の方に目をやると手足が鉄の半円状の輪で固定されていた。
「え?」驚いたのも束の間、次は車のシートベルト交差させる要領で胸を中心に十字に固定される。
「ちょっとキツメにするからね。途中で動かれたら危ないからさ」
「ちょっと待って! 何するの?」
「大丈夫だって、やってみたほうが早いから」
不安が体を支配した。考えることを放棄してしまっていたことを悔やんだ。
これこそが泰葉の狙い? 泰葉を裏切って和也と付き合ってしまった私に対する復讐を果たさんがために全てが巧妙かつ狡猾に仕組まれた罠? 私が疑問を持って付けてくるように奇妙な様子を演じて見せ、妙なカプセルを目の前で飲んで見せて……ああ、まずい。いや、まさか? 椅子から離れようと試みたが、ビクとも動かない――殺される――暴れようとするがまったく体が動かなかった。