藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 20

「・・・みこ! ・・・・・・組子!」
泰葉の声かけで正気をは取り戻したが、目の焦点はまだ合わず、ぼやけた視界で泰葉を探した。
見上げたその先で、笑顔の泰葉にようやく焦点が合った。
「泰葉? 一体何が起きているの?」
「ん? えっとね、なんて言えばいいのかな? 簡単に言うとね、忘却装置を使っていたの」
「もうわからないよ」
悲しくないのに泣いてしまいそうだった。
「んー、口で説明してもわかんないと思うんだよね……あ、そうだ! おじさん! 組子にも使わせてもらっていいなか? 大親友なの!」
こんな状況なのにもかかわらず胸がチクッと痛む。
泰葉はまた忘れているのだ……ってもう何も考えたくない。
「ああ、いいよぉ。やればいいじゃないかぁ。どうせどうしたってアリスは帰ってこないんだからさぁ。うぅぅ」
トイレか帰ってきていた老人はまだ泣いていた。いったいどうして泣いているのだろうか……どうでもいい。これ以上頭を混乱させるわけにはいかない。
「あのさ、組子は忘れたいことってある?」
深く考えることは辞め、質問に答えようと決めた。
ぼんやりと忘れてしまいたいことがいくつか浮かんだので頷いた。
「よし、それなら善は急げってことでやっちゃおう! やったほうがわかりやすいからさ」
泰葉に部屋の端にあるパイプベッドまで誘われ、そこに腰を下ろした。そして、目の前の機械の上に乱雑に置いてあったA4サイズの紙の束を渡された。紙の束は重く百枚近くあると思われた。
「これ……何?」
考えないようにしようと思いながらも、さすがに聞いてしまう。
「アンケート。まずはこれを全部埋めてね。それじゃ準備しているから書き終わったら言って」
泰葉が老人の傍らへと行ってしまったので、紙の束に目を落とした。そこには○×で答える質問がびっちりと書いてある。
一番後ろのページを見ると最終問題は「問・7777」となっていた。しかも質問の後半は○×ではなく答えを記入するようになっていた。
もう抗うことは辞めた。人間であることを放棄するように、一問目から順にアンケートに記入していった。この状況を理解しようと試みるよりもアンケートに答えるほうがずっと気が楽だった。
質問は○×の心理テストのようなものと、好きな色や音楽のジャンルを答える記入式のものなど、人となりを知るためのものばかりだったが、中には初潮の年や性行為の有無など、かなりデリケートなものもあった。多少の抵抗はあったが、それでも正直に答えていった。
全ての質問欄を埋めたころには、頭はすっきりするどころか、さらにぼーっとしてしまっていた。