藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 18


扉が急に開いたのだ。
組子は前のめりに倒れこんでしまった。
しこたま打ち付けたが、そんなこと気にせず顔を上げた。
きっと泰葉だ!
しかし、見上げるとそこにいたのは見たこともない白衣を着た老人だった。老人は白い無精ひげを撫で、泣きながら組子を見下ろしている。
「何か用でもあるのかい? うぅうっ、ありす……どうして……」
打ち付けた頭に痛みを覚えたとき、泣き喚く老人の肩越しに見えたのはとんでもない光景だった。
手と足を椅子に固定され、拘束された女子高生がいるのだ。
泰葉に間違いない。しかも、尋常な自体ではなかった。頭の先から管がたくさん生えた奇妙なヘルメットを被らされている。ヘルメットは鼻まで隠れるほど大きいので、苦痛にゆがんでいるだろう口元しか見えない。
瞬時に泰葉がこの老人に“変なこと”をされていると察した。
考えすぎだとは思いつつも、その理由の一端に自分の責任があると強く感じてしまう。発射された弾丸のように老人を押しのけて泰葉に走り寄った。
「泰葉! 大丈夫? 今助けるからね!」
 次の瞬間、目を疑った。
泰葉の太ももに二センチほどの小さな裂傷が走ったのだ。
さらに、そこから血が流れ出した。
あり得ないことだ。なにせ、泰葉の足は何にも触れていないのだ。それにもかかわらず見えないカッターナイフで裂かれたかのように傷だけが生まれのだ。
泰葉が叫んだ。
「やったわね! くらえぇ!」
声は大きかったが苦しんでいる様子ではなかった。口元しか確認できないが真剣な表情をしているのは間違いない。
何が起きているのかさっぱりわからなかったけれど、想像した“変なこと”が行われているわけではなさそうだ。足を止めて泰葉の様子をよく観察すると被らされたヘルメットの先に着いていた管が電気コードだということがわかった。電気コードは数え切れないほどの量が纏められていて大きな一本の大木のようだ。
一本一本をよく見てみると、太いのもあれば細いのもあり、色は黒が大半だったが、中には赤黄青も混じっている。大木のように伸びたコードを追っていくと天井で四方八方へと別れていた。その管がまるで膜のようにこの部屋の天井も壁も床までもを覆いつくしていだ。さらにコードの先を追っていくと聳え立つように並んでいる見たこともない機械へと繋がっている。
組子はそこでようやく、ぐるりと360度回転し、部屋の様子を確認した。
まるで解体したパソコンの基盤の中のような部屋だった。
「ねぇ、君は一体誰なんだい? 僕を突き飛ばしてさ。酷いよぉ。トイレに行こうと思っただけなのにさぁ、ううぅ、あぁぁ。ありすぅ」
 背中越しに老人が泣き濡れた声で話しかけてきた。