藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 16


予想は外れた。
そこは深い穴になっていた。
顔を離し用具入れを良く見てみると、足元に蓋を発見した。
取り外しが出来るようだ。しかし、外した場所が空洞になっているのはおかしい。
試しに蛇口を捻るが水は出なかった。ただ、その淵にウサギの絵を見つけた。空洞に顔を突っ込んで確認する。すると、その先にもあった。その絵は今までの絵と少しだけ違っていた。漫画のように吹き出しがついていたのだ。そこに書かれている文字を読もうと、さらに顔を突っ込んだ。まだ文字の判別まではつかない。その吹き出しが酷く気になってしまったので、組子は淵に手を突き、足が浮いてしまうほどギリギリまで体を入れてその文字を確認しようと試みた。
ようやくその文字が読めた。
『急がなきゃ。パーティーに遅れてしま――』
そこまで読んだときに手が滑ってしまった。
なんと組子は流しの中へ頭から落ちてしまった。
瞬時に死を意識した。あまりの恐怖でアドレナリンが異常分泌したのかスローモーションの世界に一変する。落ちた先は穴ではなくスロープ上になっていた。実際には相当なスピードで滑り落ちているのだが、体感速度はのろのろとした亀のようなものだ。そのため、横の壁に一定の間隔で描かれた絵が全て頭に入ってきた。
 時計を持った白兎。
「私をおのみ!」と書かれたビン。
「私をお食べ!」と書かれたケーキ。
少女が流した涙の海。
怒ったねずみ。
ドードー鳥。
煙草をふかす芋虫。芋虫の噴出しには「つまりあんたは自分が代わっちまったと思っているわけだ?」と書かれていた。
巨大化した手足の飛び出た家。
丸っこい双子。
コショウまみれの部屋。
年配の着飾った女。
笑った猫。
赤ん坊。赤ん坊の吹き出しには「ぶう」
また笑った猫。
帽子屋。吹き出しには「からすと書き物机は似ている。なぜだ?」
先ほどとは違う発情期のように興奮したウサギ。
またまた笑った猫。
眠っているねずみ。
綺麗なお庭。
まただ、笑った猫。
トランプの兵士。
ハートの女王。吹き出しには「首を切れ!」
フラミンゴとハリネズミ。
海ガメ……のようだけどどこか違う生き物。
次はグリフォン。
踊るイセエビ。
そして裁判所の絵。そこにはハートのジャックとハートの王様。
法廷に立つ帽子屋。
ペッパーミルを持った女。
ハートの女王、やはり噴出しには「首を切れ!」
踏みつけられるトランプ兵士と大きな少女。
そして絵の最後は綺麗な服を着た先ほどとは違う少女だ。
 そこまで見ると、組子は滑り台から投げ出された。
時は通常の速度に戻ったが、しばしぼーっとしてしまう。
今の滑り台でどれだけ滑ったのだろうか? そんなに長い時間ではないだろう。
書かれていた絵は昔読んだ不思議の国のアリスをまるで自分が再体験しているような気を起こさせるようなものだった。そして、最後の絵、あの絵の少女は今よりも幼い印象は受けるものの、どこか泰葉に似ていた……ていうかここどこ?