藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 13


人ごみの中、泰葉とつかず離れずの距離を取りつつ改札を出た。泰葉はまっすぐ駅ビル・ルミネへと入っていった。そして、エスカレーターで7階の書店へと向かった。書店で泰葉が手に取ったのは飛び出す絵本だった。
タイトルは“不思議の国のアリス”だ。

泰葉には歳の離れた妹はいない。組子の知る限りそういった親戚の存在もないはずだった。
しかし、泰葉はアリスの飛び出す絵本をレジに持って行った。ラッピングはしていないようだけど、泰葉のものだとも思えない。
そもそも、今のこの状況で絵本を買いに立川に来たのは不自然だ。飛び出す絵本自体は組子も少し欲しくなったが。しかし、泣きながら自分の前から走り去った足で買うようなものでもないだろう。
制服姿に書店の袋、といった出で立ちの泰葉はルミネをあとにすると北口へと出て行った。大通りに立ち並ぶお店には見向きもせず、静かな路地裏へと向かった。それでも後をつけるが、さすがに人通りも少なくなってきたので、多少距離をとった。
それから数分で泰葉は決して綺麗とは言えない雑居ビルへ消えていった。
ビルの外からエレベーターを待つ泰葉を確認し、乗り込んでその扉が閉まったところで組子もエレベーターホールへと足を進めた。
電子昇降板で泰葉が向かったフロアを確認する。
地下一階でエレベーターは止まった。このビルの最下層だ。
脇にあるフロアマップで地下一階には何があるのかを確認する。しかし、地下一階に限らず、このフロアマップは空白が目立っていた。店子の出入りが激しいのかもしれない。
 組子は戻ってきたエレベーターに乗り込むと地下一階へと向かった。
エレベーターの扉が閉まると急に不安になった。
勢いで後をつけてしまったがこの先に一体何があるというのだろう?
もしかしたら、あのカプセル剤は麻薬の一種で泰葉はその効能で一時的な記憶喪失になってしまったのか? つまりこの先にはその売人が? 突拍子もない考えばかりが浮かぶが、事実、突拍子もない状況なので仕方がない、となんとか納得してみた。
地下一階に到着し、エレベーターの扉が開いた。
そういえば、開いた瞬間にそこに泰葉がいるかもしれない、と思ったが誰もいなかった。右、左と確認してからエレベーター内から降りた。
 全てに薄い布が一枚覆いかぶさっているように思えるほど薄暗いフロアだ。
目の前にはガラス張りの事務所。ただし曇りガラスなので中の様子までは確認できない。フロアのどこかにいるはずの泰葉を探そうと、廊下をぐるりと回るが、他に事業所が入っている様子はなかった。
その唯一の事務所の入り口を探し当てた。
“○○クリニック”
どうやら事務所ではなく精神科のクリニックのようだった。