藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 11


「……ごめん。泰葉のことも好きだから……言い出せなくて」
 泰葉に対して劣等感を感じていることだけを隠した。惨めな自分を認めたくない。また泣けてくる。
「私さ、本当に組子のこと好きなんだよ? もちろんさ、組子に聞いたとしても和也君のこと諦めなかったと思うけど、だけど、私と組子の友達関係は、友情は続いたはずだよ」
 それはきっと半分正解で半分は不正解。友達関係は続いただろうが、友情はきっと終わってしまう。泰葉が思うよりも私は卑屈で卑怯で劣等感の塊なのだ。
 そんな私に泰葉まだ続けた。
「抜け駆けみたいなことされたら私たちの友情は続きようがないじゃない。誠実さがないと思うよ」
 それにしても誰に何をどんな立場で責められているのかさっぱりわからない。ますます混乱してしまった。
「ねえ、ちょっとさ、私、今、何が起きているのか、さっぱりわからないんだけど。泰葉は本当に覚えていないの?」
 泰葉は頷いた。そして、頭を掻き毟りながら「もう、駄目。気になる」とボソッと呟くと、バックから手帳サイズの赤いピルケースを取り出した。昔、お揃いで買ったものだ。
ピルケースを開けると、カプセル剤を手に出した。
見たことのない錠剤だった。
大きさはピーナッツ程度。通常のカプセル剤よりも一回り大きい。海外製のサプリメントみたいだ。それだけじゃない。そのカプセル剤には紅白の千鳥格子の柄が施されていた。パーティーグッズのように見えたし、どこか不思議の国のアリスを連想させた。
泰葉はそれをぽいと口の中に放り込むと、水なしで咽喉を鳴らして飲み込んだ。
そして、しばらく目を閉じると頭を抱えてしゃがみ込んだ。
泰葉が何をしているかさっぱりわからなかった。
ただ、呆然とその光景を見ていた。
数分してからようやく泰葉が声を発した。
「……組子……酷いよ」
その声は涙に濡れていた。
立ち上がると泰葉は目に涙をいっぱい溜めて大きな声で言った。
「私はね、組子との関係を断ち切ってまで和也君と付き合いたいとは思わないよ! 一番の友達なんだから! 親友も好きな人も失った私はどうしたらいいのよ!」
 泰葉は私を睨み付けるとバックを抱えて走り去った。
もちろん、この行動こそがこの半年間を踏まえた上で考えれば、何よりもしっくりくる態度なのだけれど、この数時間の異常さが、逆に走り去っていく泰葉の背中に違和感を与えた。
組子は泰葉の背中が見えなくなるまで立ち尽くしてしまった。