藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 10


「そんなわけないでしょ。思ったこともないよ。もう、組子、もしかして、それでずっと私としゃべってなかったの? 馬鹿ね。あはは」
 一語として消化も、租借すら出来なかった。
起きたことは間違いないはずなのに、この半年の悩みは本当に自分の勘違いだったのかも? と、あり得ない考えが頭を巡る。さらには、そうだったらいいな、なんて組子の弱気な脳が混乱していた。
――もしかして、泰葉はあまりのショックに精神を病んでしまって、記憶を失ってしまったのだろうか? 私はそれだけ泰葉を傷つけてしまったのだろうか?
新たに浮かんだ答えの候補に心臓がキリキリと痛んだ。さっきから胃も痛い。呼吸も苦しいので肺も通常運転をしておらず、ほとんどの内臓が言うことを聞かない。
 すると、急に真顔になった泰葉がおかしなことを言い出した。
「でも、待って。もしかしたら、そういう可能性もあるかも……」
何を思ってそう呟いたのかがわからなかった。
二時間目の終わりから今までの全ての言葉の意味がわからない。
「ねえ、何が起きたか教えてくれる? 私と組子の間で何があったのかを」
 さらに続けておかしな質問をされた。
――もしかしたら、これこそが泰葉の狙いなの……?”
事の経緯を私から話させ、苦しめようとして、この数時間ずっと演じていたのかもしれない。つまり高度な嫌がらせではないだろうか?
しかし、泰葉の性格を知っているからこそ、頭に浮かぶどの答えも正解だと言い切れなかった。
相変わらずぱっちりした二重の大きな目はまっすぐと私に向けられていた。
今更ではあるが、あれいら逆に強くこびり付いていた「誠実にいたい」思う気持ちが組子に洗いざらい話すことを決断させた。
まさか、改めて自分の口から、ことの経緯を泰葉に聞いて聞かせることになるとは夢にも思わなかった。
ゆっくりと一語一語噛みしめるように話した。吐き出される言葉に嘘はないものの、私もずっと好きだったから、だとか、相手も思ってくれたことに驚いた、だとか、言い訳に聞こえるような言葉が次から次へと溢れ出す。自分のことを無理やり正当化しているようで、心臓、胃、肺だけでなく、すい臓も肝臓も腸も全てが引きちぎれそうなほど体内で何かが暴れている。
 聞き終えた泰葉は、
「嘘みたい」
と呟いた。そして、
「それ本当なの? 本当だとしたら酷くない? なんで正直に言ってくれないの?」
 テレビニュースで嫌なニュースを見たときのような他人事の正義感のような響きだった。