藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 8


恋い焦がれている人と、親友が付き合う。
しかも、自分はその間を取り持たなければならない。
理由は端から敵わないと認めているから。
惨め過ぎてかわいそう。
諦めることで自分を保って、本当の気持ちを言えないまま、今後、二人とずっと接していくと思うと、涙があふれた。その様を想像すると自分が自分でない何かに変身していくような気にすらなっていった。
だからって今更、告白なんて出来るはずがない。泰葉に「協力する」と言ってしまった。許されるはずがない。そもそも、告白したところで泰葉に敵うはずもない。泰葉が誰かに拒否される理由なんて一つもない。天変地異が起きようと、二人は付き合うことになるはずだ。
組子は自分がはじめから自分が惨めになるように生まれてきたのではないか? と神様に問いたい気分になった。
せめて・・・・・・一つだけ望みが生まれた。
どう足掻いたところで惨めになるのならば、惨めさを感じている自分をバレてしまうことだけでも回避したい。
神様、お願いします。自分が惨めなのは誰にも言わないで。
組子は涙と鼻水まみれの口を開いた。
「……あのね、泰葉が和也のことを気になっているって言ってたよ」
今後、一生嘘を吐き続けながら生きていくことになることが決定された瞬間だった。自分の思いを、悲しい傷を、必死に隠して生きていくことを覚悟した。
どうせならば消えてなくなりたい。しかし、人生にリセットボタンはなかた。
「組子、いったいお前はなんで泣いているんだよ?」
「……どうでもいいでしょそんなこと」
もう立っていられなかった。その場にへたり込んでしまう。
「どうでもよくないだろ?」
「じゃあお腹が痛いの!」
「そんな泣くほど痛いなら病院行ったほうがいいぞ?」
 和也が手を差し伸べてくれた。目の前の手を握る勇気はなかった。
触れたらすべての覚悟が消えてなくなりそうだった。
「馬鹿ね。そんなの嘘に決まっているで――」と言いかけたときだった。
予想外のことが起きた。なんと強制的に手を引かれ、そして和也に抱きしめられたのだ。
異性に抱きしめられるのは始めての経験だった。
自分の力以外で立っていることで、思考が停止してしまいそうになる。
予想外の出来事はまだ続いた。
「組子、なんか勘違いしているみたいだけどさ……いや、もしかしたら俺が勘違いしているのかもしれないんだけれど……」
 和也の匂いが鼻腔をくすぐった。
機能が著しく低下している脳は「心臓が破裂してしまうのではないか」と冗談抜きで考えてしまう。激しい嗚咽と鼓動で窒息寸前だ。
全体重を和也に支えてもらっているという高揚感と安心感を初めて味わったからかもしれない。いや、理由などわからない。ともかく組子は予想外なことを言ってしまったのだ。
「和也……好きです」
 予想外の出来事はそれで終わりではなかった。
「……俺も組子がずっと好きだった」