藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 7


決して親友と意中の人とを天秤にかけた結果ではなかった。
相手が泰葉ではなく、真美だったとしたら……きっと正々堂々と宣言することが出来ただろうと思い至ってしまったのだ。
別に真美がどうこうというわけではない。泰葉にだけはどうしても勝てる気がしなかった。相手が悪すぎる。顔に然り、スタイルに然り、勝っている要素は一つも見当たらなかった。正々堂々と勝負をしたとしても、組子から見たら1500m走と50m走で競争するようなものであった。チビでガリで一重瞼の自分と泰葉では存在意義が違う。知っているだけで泰葉は高校入学後すでに6人に告白されている。その中には組子からみたら断る理由も思い浮かばないような素敵な人も含まれていた。それも複数だ。
そして何よりも勝てない要素はその全てに泰葉には自覚がないところ。贔屓目に見ても自分よりもずっと性格も良い。そんな泰葉のことが大好きだった。憧れにすら近かった。
 結局、組子はもう和也のことは諦める他、道はないと悟ってしまったのだ。
 それから数日後、和也から電話が掛かってきた。
妹の誕生日プレゼントを買うので付き合ってくれないか? とのことだった。
組子は了解し、その際、泰葉のことを聞いてみようと心に決めていた。敵わない戦いをして全てを失うよりも二人の友人でいることを選んだのだ。
 和也と二人で近所のイオンショッピングモールにて買い物をし、スターバックスに入って一息ついた。組子はホットのホワイトモカ、ショートサイズ。和也はホットのチャイティーラテ、トールサイズを頼んだ。
ホワイトモカが半分ほど減った頃、泰葉のことをそれとなく聞いてみようと思った。もし、和也の感触がよければ「泰葉が気になっているんだって」と伝えてみようとホワイトモカをずずっと飲みきったとき覚悟が決まった。
「……」
しかし、口がパクパクと動くだけで声が出てこなかった。
原因は心理的なものではなかった。物理的に声が出なかったのだ。必死に声を出そうとしても嗚咽が漏れ出た。
もう一度、声を出そうとしたときに気付いた。泣いていたのだ。嗚咽を漏らして泣いていたのだ。泣いていることに気付かないことなんて初めての経験だった。
「どうした? なんで泣いているの?」
当然、和也は困惑していた。その理由を伝えようと思ったが自分でもわからなかった。そもそも嗚咽が酷く話せるような状況ではなかった。スターバックス内でワンワン泣くなんてとても恥ずかしかったけれど、どうしようもなかった。
 和也が手を取って外に連れ出してくれた。それでも泣き止むことができなかった。
混乱してしまっていた。それでも泰葉のことを聞かなければならない、という使命感だけは存在していた。
「……泰葉のこと……どう思う?」息も絶え絶えだった。
「へ? どうってなに?」
和也にしたら涙ながらにいきなりこんなことを聞かれて意味不明だったろう。さすがに突拍子もない。それをわかりきった上でも当時の組子の頭の中にはそのことしか頭に浮かばなかったのだ。
「……綺麗な子だと思うよ」
和也の返答で組子はさらに泣いてしまった。嗚咽どころか鼻水まで出てきてしまう。ようやくわかったのだ。なぜ泣いているのか、その理由が。
惨めな自分がかわいそうで泣いていたのだ。
泰葉のことは大好きだった。優しくて、綺麗で、そのくせ言動や行動は可愛くて、あんな綺麗な子が仲良くしてくれているのは自慢だった。
だけど、まさか二人で和也のことを好きになるとは思わなかった。
もしも、泰葉と和也が付き合うことになってしまったら本当に自分は二人と仲良くできるだろうか?
正直なところ、できるような気がした……表面的には。一切のほころびもなく演じきる自信があった。
しかし、それこそがとても惨めなことだと気付いてしまったのだ。