藤木の国のアリス~伽炉瑠博士の忘却装置~

藤木の国のアリス ~伽炉瑠博士の忘却装置~ 6

意地悪な目で見ても、嫌味を言っているような顔ではなかった。もしかしたらこれは夢なのだろうか?
「それともなあに? 組子は何か私が怒るようなことでもしたの?」
 ずっと泰葉とこうやって自然に話したいと心から願っていた。半年前のように。
それでこんな夢を? いや、夢であるはずがない。夢かな? と思うと醒めてしまうのが夢だ……だったらこれは何? 現実だって言うの?
異変の正体を泰葉に尋ねれば尋ねるほど頭が混乱していった。
そう、つい昨日まで組子と泰葉は“絶交状態”だったのだから。

発端は泰葉からのある相談だった。
「あのさ、組子、和也君と仲良かったよね? ……私ね、最近ずっと和也君のことが好き……っていうか気になっているんだけど、その……間をさ、取り持ってくれないかな?」
 顔を赤らめた泰葉に頼まれたのだ。
組子はその後、泰葉が和也を気になったいきさつを、体温が下がっていくのを感じながら聞いた。
泰葉の言うとおり和也と仲が良かった。しかし、それは幼馴染であるとか、中学が一緒であるとか、たまたま席が隣同士になったとか、そういった理由ではなく、サッカー部でエースを務める和也を好きになった組子が自ら接点を持っていった結果に過ぎなかったのだ……そう、組子はとっくに和也に惚れていたのだ。17年生きてきて、初めて恋をした人物こそ和也だったのだ。
今思えば泰葉から相談された際に、正直に自分の気持ちを話せば良かったと心底思う。しかし、できなかった。泰葉は高校入学してすぐに仲良くなった親友。毎日、二人で登校し、昼食を共にし、一緒に下校する唯一無二の親友なのだ。
ならば和也のことが好きになったときに先に相談していれば……どちらにせよ、後の祭りであることは理解していたが、この半年間、そんな“もしもの世界”を何度も頭に描いては自らかき消した。“男の子ぶなんてたいして興味がないわ”という自分のスタンスを保っていた組子が素直に真実を話すことは容易なことではなかったのだ。ただただ恥ずかしかったのだ。サッカー部のエースで皆が憧れている男子のことを好きだなんてことがバレてしまったら、たとえそれが親友の泰葉であっても恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がなかった。
何より、相談した結果【告白したほうがよい】という結論に至ったとしても、それを実行する自信がなかった。自信がなかったものだから、それとなく話しかけ仲良くなり、長期戦でいつの日か和也のほうから自分に……なんて奇跡めいたことを想像していたくらいなのだ。
そんな中の泰葉の相談に思わず頷いてしまった。
さらに「何が出来るかわからないけれど、探りくらいならいれられるよ」なんて笑顔で言ってしまったのだ。
その日から組子の胸中は期末テスト前以上に忙しくなった。
部屋で一人、座っているだけでも、
今後どうなってしまうのだろうか?
言ってしまったからには泰葉を応援しなければならないのだろうか?
どうしてあんな軽口を叩いてしまったのだろうか?
どうして自分も好きだと打ち明けなかったのだろうか?
色とりどりの重たい疑問符が体内を駆け巡っては内臓に鳥肌を立てた。
 そして、ある日、泰葉の相談に乗ってしまった本当の理由に思い至ってしまい一人で泣いた。