☆立ち読み☆「Royal straight crash!!」 ☆第二作目☆

CAYEYTV6
初めに残念なお知らせがある。
中学生のころの話ではあるが、夜、布団に入って眠りにつく直前に、こんな妄想にふけるような奴だったんだ。……この物語の主人公、リーって奴は。

四角い大きな病院。最上階の個室。その堅いベッドの上にリーは、座っていた。
顔色は本来の肌の色からは、かけ離れた酷いもので、頬はやつれている。
ゆっくりとした動作で首を、はめ込み式の窓のほうに捻る(ひねる)。そんな小さな動きでさえどこか辛そうだった。窓の奥にはこの大きな病院が建てられる以前からあるというイチョウの木がそびえ立っていた。そのイチョウの木は紅葉の季節を過ぎ、スカスカに枯れていて、生気を失い、紅色、黄色から茶色になってしまった葉すら、あと数枚しか付けていなかった。
イチョウから舞い落ちる枯れ葉を眺めながら乾いた咳を一つつく。咳の衝撃で体がバラバラになってしまいそうなほどの痛みが走る。青い病人服の上から胸を押さえ、痛みが引いていくのを暫し待った。そして、小さなため息を吐いてからリーはまたイチョウの木を眺めた。
リーはここ一ヶ月間、毎日こんな生活を送っていた。つまり、入院しているということだ。しかも不治の病だった。もうこの病院の個室から出ることは二度とないだろう、そのことはリーも知っていた。医者から不治の病だと告知も受けたんだ……病名は考えていなかったけど。
そして、もう一度咳をしたとき、個室の扉が小さな音を立てて開いた。
イチョウの木から扉の先に視線をゆっくりと移すと、そこには当時リーが恋をしていた女子テニス部のヒサコが愛らしい笑顔の前で小さく手を振っていた。学校を長期欠席しているリーを心配してお見舞いに来てくれたようだ。
「リー? 入院したって聞いたけどいったいどうしたの?」
「え? 別にたいしたことないよ」
急な来客にもリーは不治の病に犯されていることを必死で隠し笑顔を作って言葉を返した。その顔を見て少しホッとした様子のヒサコはスタスタとベッド脇までやってきて椅子に腰掛けた。そしてお見舞いの林檎を剥きながら話し始める。
「まったくさ、最近リーが来ないなぁ、って思っていたら、入院しているっていうんだもん。びっくりしたよ。みんなも心配しているよ?」
「へへ、わりー、ちょっと検査が長引いちゃっているみたいでさ」
会話の最中も言葉を発するたび、痛みはリーをあざ笑うかのように襲ってきていた。しかし、どんなことを聞かれようとも痛みを、咳き込みそうになることさえ堪え、リーは惚けたジョークを何度も飛ばしてヒサコを笑わせた。しかし、
「退院したらちゃんと学校来るんだよ? 遅れている勉強は私が教えに来るから心配しなくていいからね。それじゃまた明日来るね! ばいばい」
別れ際のヒサコのこの言葉でリーは笑顔を作っていられなくなってしまった。
「……ん? どうしたの?」
その変化に気付いたヒサコは不思議そうな顔でリーの顔を覗き見る。
「――え? いや、なんでもないけど……」
「なんでもないけどなによ?」
「…………もう病院には来ないで……くれ……ないか?」
「……なんでそんなこと言うの?」
「…………」
ヒサコは真顔でリーの真意を確かめようと真っ直ぐ目を見てくる。悲しそうな目だ。リーは何も言えなかった。上手な理由が見付からないのだ。ヒサコの目を直視することなんてとても出来ない。
「リー?」
それは不安そうな声だった。涙が溢れそうになる。だけど泣くわけにはいかない。言ってしまうわけにはいかない。
「――いいからもう来るなよ! 迷惑なんだ!」
葛藤の末、リーは怒鳴ってしまった。するとヒサコの愛らしい瞳からすうっと一筋の涙が流れた。涙に濡れているヒサコの顔を見ることはおろか、指先すら視界に入れることを苦痛に感じた。そしてイチョウのほうに顔を背ける。
――本当は言いたい。
“俺、実は不治の病なんだ”
“ヒサコが好きだ!”
大声で叫びたいくらいだ。……だけど言えなかった。もし、そんなことを言ってしまったら……。仮に不治の病でないのならば、こうして闘病生活を続ければ治るというのならば言った。しかし、現実問題、リーは不治の病なのだ。待ち受けているのは“死”ただそれだけなのだ。
これから死に逝く自分の心の内をヒサコに無責任にぶつけるわけにはいかない。もし、自分の気持ちと、これから自分に起きる事をヒサコが知ってしまったら……いったい彼女はどういう気持ちになってしまうのか?
言葉を失い泣き崩れるヒサコの姿が思い浮かんだ。
……言えるはずない。
……言っていいはずがない。
……そんなこと許されるわけはない。
ヒサコが苦しむのはリーだって辛い。世界の全てから許されたとしても、リー自身がそんなことは許せない。だってリーはヒサコが好きなんだ。
「……いいから、いいから帰れよ! もう来るな!」
葛藤を隠し、リーはさらに声を荒げた。体中が痛む。
何度かの問答の末、結局、ヒサコは泣きながら病室を出て行ってしまった。止めたくても止められない。「待って!」と叫びたくても叫ぶわけにはいかない。
病室にぽつねんと取り残されたリーは窓から外を眺めた。思わず悲しげに舞うイチョウの木の葉を自分に重ねてしまう。
なんの前触れもなく堰を切ったように涙が止め処なく溢れた。
涙の後を追うように、どんな形容詞でも形容しきれない気持ちがこみ上げてくる。
ベッド脇の花瓶を手にとった。
花瓶に飾ってある花は枯れていた。
悔しい。悲しい。痛い。辛い。愛している。思いつく全ての感情が爆発する。手に取った花瓶を床に思い切り叩きつけた。砕け散り散乱する残骸が自分の未来を暗示しているかのようだった。
「――ちくしょー! なんで俺が……どうして俺だけが? 死にたくないよぉ……、好きだよ。俺、ヒサコが好きだよぉ」
リーは顔を布団に突っ伏し泣き続けた。

…………てな妄想に。
まったくもってどうしようもないだろう? このリーって男は。
しかし、こんなもので呆れている場合じゃない。残念なお知らせの本番はここから始まる。
……なんと、なんと現実の不治の病でないピンピンしたリーも自分で繰り広げた妄想劇に感動し、部屋の布団の中で涙ぐんでいたんだ。
……本当に救いようがない。なにせリーは健康だけが取り柄の少年で入院なんてものには全くもって縁遠い少年だったのだから。
しかし、まぁ、ここまでなら残念で救いようがなくとも、まだ許せるかもしれない。言うなればこれは思春期特有の妄想劇。自我の肥大がピークのころの妄想なのだ。程度の大小、回数の多かれ少なかれを別にすれば誰しもが経験のあることかもしれない。この類の“気持ち悪さ”はこの年代においては、あって然るべきなことなのかもしれない。
しかし、リーが本当に救いようないのは、ここから先の話だ。なんと、お見舞いにくる女の子はヒサコだけではなかったのだ。
お見舞いに来る女の子役には学校の可愛い娘が入れ替わり立ち代り、日々、目まぐるしく変わっていった。その日の気分で今日はこの娘にお見舞いに来てもらいたいな、と思ったら自由に相手を変えて、100%の確立で涙ぐんでいたんだ。二人同時に来てリーを取り合う――なんてことも一回や二回ではない。
当然、他にも前科はある。
例えば、地下鉄に毒ガスが散布された事件が起きたとき。
リーはその事件のニュースを見るやいなやこんな妄想劇を作り上げた。

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☆立ち読み☆「Royal straight crash!!」 ☆第二作目☆” に対して 3 件のコメントがあります

  1. より:

    伊勢さ~ん!!
    日本帰ったときのみいきましょーね!!

  2. 裕次郎 より:

    了解でーす!
    天って誰ですかー?

  3. 裕次郎 より:

    あっ!
    天さんって謝さんっすね!
    気づかなくてすいません!!
    今出先なので、明日メールしますね!!

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