☆立ち読み☆ そりゃオレだって死にたいさ ☆デビュー作☆

9c664c24.jpg【凍った夜に君と出会った】

……あの日は、木枯らしが吹いていた。

家から程近い場所にある小さな公園。名前が、あるのかすらわからないさびれた公園だ。公園の真ん中には赤色のペンキが所々剥げたクルクル回るジャングルジムがある。そのてっぺんに登り、彼女のことを思い出した。
確かにオレには誇れるものなど何一つない。だけどそれ故にオレにとってライカが“全て”になったわけではないんだ。ライカに出会わなければ“全て”なんて言葉さえもオレには無かったのかもしれないのだから。

「ねぇ。私……もうダメみたい」

おなかに付いたボタンを押すとケタケタと笑うオモチャ。彼女の笑い声はそれに似ていて、その声を聞くとオレは何時でも、柄にもなく“明日もいいことが、あるかもしれない”なんて素敵な気持ちになれたんだ。


「生きていても、楽しいことなんて何一つないの!」

ライカと初めて出会ったのは二月初めの凍りつくような夜だった。
あの時、小腹が減ったオレは、ひどい寒さの中、スウェットに半纏を羽織っただけのどうでもいい格好で外に出たんだ。
あまりにも寒く薄氷の中を歩いているようでパリパリと音が聞こえてくる気がした。オレは、息を吐きながら思わず空を見上げた。吐くたびその息が凍ったように見えた。流石に、あまりの寒さに外に出たことをすぐに後悔した。だけど、部屋に戻るのも癪(しゃく)だったので、そのままコンビニに向かったんだ。部屋からコンビニへは普通に歩くと7分くらいかかるのだが、道の途中にあるこの小さな公園を突っ切ると五分で辿り着ける。腹が減っているときの二分は貴重だ。だがオレはこの公園を滅多に通ることはなかった。

「あぁ、なんで私こうなっちゃったんだろう? でも信じて。私ね、こうなりたくてなったんじゃないんだよ。本当に気づいたら“あれよあれよ”っていった感じでこうなっちゃったんだ」

この公園にはたいして遊具は置いていない。今、オレが乗っている回転する丸いジャングルジムと滑り台、それに砂場だけだ。たったそれだけの小さな公園だった。だから昼間でもあまり人がいることはなかった。しかし、人がいない理由はそれだけではなかったんだ。
この公園にはある噂があった。噂自体は「病気を苦に首吊り自殺した女性が幽霊となって現れる」という何処にでもあるようなものだった。確かに数年前に女性が首吊り自殺をしているのは事実だから、そんな噂があってもしょうがないのかもしれない。ただ、ご丁寧にこの噂には、目撃例がいくつもあったんだ。ある人は血だらけの女性を見た、だとか、誰かの知り合いの、又、その知り合いが夜中に裸の女性が一人で地面に座って笑っているのを見ただとか。他にもまことしやかな噂がこの公園には流れていた。
“くだらねぇ”
この噂に関してのオレの意見はその一言に尽きた。例えば自殺した女性がいなかったのならばいい。しかし、本当に自殺してしまった人がいるのだ。そんな噂そのものが、死者への冒涜であるし、化けて出た、なんて噂を聞いた遺族や恋人はいったいどう思うのだろうか? それを面白おかしな怪談に仕立てる奴らも、キャーキャー騒ぎ立てる奴らも、マジでくだらねぇと思う。
……だけど、まぁ、なんというか、オレも進んでこの公園に入ることはなかった。頭ではそう思っていても気持ち的には多少は気味が悪かったし、避けて通れるならばそうしていた。しかし、そんなオレであってもあの日の寒さには耐えられなかった。柵の前で一瞬躊躇はしたものの公園を突っ切ることに決めたんだ。柵を跨いで公園内に入ると先入観のせいかもしれないが背筋がゾーっとしたを覚えている。


「私はどこで失敗したのかな? ううん。今の時点でもう取り返しがつかないことは分かっているの。ただ何がダメだったのかな? って、ただそう思っただけ」

早足で公園内を歩いていると視界の片隅に何かがチラついた。顔を向けてみると、外灯が丸く弱い光のスポットライトでベンチを照らしていた。
ベンチには女の子が一人腰掛けていた。スポットライトはベンチではなくその女の子に向けられていたようだ。明かりのせいか、空気が凍りついていたせいか、その両方か、よくわからないが彼女が、まるで氷の棺の中にいるようにキラキラと輝いて見えて、とても美しく見えたのは覚えているんだ。


「もう生きていたくないよぉ!」

普段ならば特にどうするといったこともなく、そのまま通り過ぎたに違いない。しかし、あの時は寒くて凍りつくようだった……オレの体を構成する水分が全て凍りついて、まるで金縛りにでもあったように氷の棺越しの彼女に見とれて動けなくなったんだ。
すると彼女もオレの存在に気づいたみたいで顔をゆっくりとオレのほうに向けた。
オレは、彼女の左の頬が赤く腫れあがっていたことに気がついた。血管に熱湯が注ぎこまれたようにオレの体は内からドクドクと波打ち始め、すぐに熱くなった。その熱で彼女の周りの氷の棺は溶けて消えた。オレたちの間にあるのは薄い氷のような空気だけだ。彼女の着ている洋服が泥だらけでボロボロのものだということが分かるまで時間は掛からなかった。
氷の膜越しに彼女と目が合った。長く伸びた茶髪を頭の上でまとめている。そしてこの寒空の下だというのにTシャツにミニスカート。足元だけは暖かそうなブーツを履いていた。

「……死にたいよぉ」

目を合わせたままお互い一言も発さないままどれくらいの時間が過ぎただろうか? 寒さで時間さえも凍ってしまっていたのかもしれない。時計の針が動き始めたのは彼女がニコリと力なく笑ったときからだった。その一瞬のち彼女はベンチから倒れ落ちた。
それがオレとライカとの出会いだった。

ねぇライカ? オレはお前の救いになれていたのかい?
いや、なれてなんていないよね。わかっているんだ。何も……本当に何一つ出来やしなかったからね。
だとしたらライカ? オレ達は出会ってよかったのかな? ひょっとしたら出会わなければよかったのかな?
……相変わらずダメだなオレって奴は。こんな弱気なクエッションマークばかりじゃ又、ライカを困らせるだけだよな。オレがだらしなかったり愚痴をこぼしたりするときは、ライカはいつでも厳しかったからね。無言でオレの情けない本音を見透かすみたいでさ、そのたびオレは拗ねて(すねて)いたけど今ならなんとなくわかるよ。自分で決めて自分で動かなくちゃいけないんだよな。愚痴ったって何も解決しねぇんだよな?
――でもライカ、やっぱりダメだよ、オレは。
なぁ、またダメなオレを叱ってくれよ。
そんでオレが謝ったらまた優しくしてくれよ。
……会いたいよ。ライカに会いたいよ。


【物語は知らぬ間に始まった】

感度が、どんどん下がっていく。
オレの目の前のもの全てが、何でも当たり前になり始めたのは、いつの頃からだろうか? まだオレが電波ビンビンの少年だった頃は、そう簡単に一日が終わることはなかった。朝起きて、飯食って、クソして、学校行って、一時間目、二時間目、20分休み、三時間目、四時間目、給食、休み時間、五時間目、六時間目、そして下校。
“20分休み”。あの頃は20分でなんでも出来た。20分の中で泣いたり笑ったり怒ったり、たまに怪我したり。何かが始まり、そして終わるまでの時間が確かにあった。今、20分もらったとしていったい何が出来るのだろうか?
今よりも起きている時間は短いのに一日の中にいくつもの発見や感動があった。同じ日は一日もなかった。今だって同じ日なんて一日もないのだろうが寝る前に今日、何があったのかなんて覚えちゃいない日の方が圧倒的に多い。今日だってそうだ。昨日、寝たばかりだというのにもう一日が終わり始めている。
週五日、毎日クソ真面目に働いても、家賃、光熱費、食費で残りは雀の涙。金なんて貯まりゃしない。せっかくの休日も平日出来ない用事を済ませて終わるか、誰かの暇つぶしに付き合わされて終わるかのどちらか。決して世の中が悪いとかは思わない。貧富の差だとかワーキングプアだとか言われちゃいるが、まぁオレたちはそれなりには生きていける。最高だ、なんてことは思ったことは流石にないが、オレたちはなかなかどうしてそれなりだ。となると悪いのはオレ自身なんだろう。たまに時間がぽっかり空いたときだって何をしていいかわからないオレに世の中の不満をぶちまける資格なんてない。そんなことは言われなくてもわかっている。せっかくの休日に昼まで寝てしまい、夜中に眠れなくてもすることが思い浮かばないオレみたいなやつは何がどうなろうときっとこのままだ。
“ぐ~っ”
こんなオレでも生意気に腹が減る。冷蔵庫の中はビールと栄養ドリンクしかない。面倒くさいが仕方ない。何か腹にたまるものを適当に買ってこなければ。何も買っておかなかったオレが悪いんだからね。
オレは、着の身着のままで外に出た。想像以上に寒かった。だけど夜中の外は嫌いじゃない。休日の昼間に比べたらずいぶんとましだ。太陽が照っている中で楽しそうにした奴らを見るとなんだかムカついてくることがあるんだ。何がそんなに楽しいのか? なんでそんなふうに笑えるのか? そんなことを考えてそいつらをボーっと見ているとたまに目が合う。そんなときオレはすぐに目を逸らしてしまう。人と目を合わせるのは、あまり好きじゃないんだ。何と言えばいいのだろうか?
……どうしたらいいのかわからなくなるんだ。なんだか年を負うごとに心が卑屈になっていく気がする。最近はどんどん、そんな自分が嫌いになる。オレにだって友達はいるさ。だけどオレは誘いがないとそいつらとも会うことはない。もちろん会いたくないわけじゃないし、会って遊べば奴らみたいに真昼間でもニコニコと楽しい時間が過ごせる。だけどオレから誘うことは滅多にないんだ。理由はよくわからないが、どんなに気の合う仲間といてもオレの心は満たされないからなのかも知れない。きっと、一人の方が性に合っているのだろう。
それにしても寒い。夜中に一人で歩くのは嫌いじゃないが、ダラダラ歩いていられるような寒さじゃないなコレは。気は進まないがショートカットするか…………

続きが読みたい方はこちらへ↓
http://6931.teacup.com/goodbook/shop/01_01_01/isbn978-4-903847-18-4

もしくはこちらへ【出版社のHPです】↓
http://goodbook.jp
※注・音が流れることがあります。

Follow me!

☆立ち読み☆ そりゃオレだって死にたいさ ☆デビュー作☆” に対して 4 件のコメントがあります

  1. ぴのこ より:

    皆様に
    若者のむき出しの心がここにあります。
    ぜひ 手に取ってください
    お勧めの一冊です。
    裕次郎さんに
    がんばってね~
    これ↓
    ※注・音が流れることがあります。
    笑いました。くくくっ

  2. ise_vicious より:

    ありがとうございます!本気で頑張ります!
    音はなんとかならないですかねぇ。みんなページを開いてもすぐに閉じちゃいますよね・・・

  3. ぴのこ より:

    私のPCは音量-にしてあります。
    突然音が流れると
    びっくりしてひっくり返りそうになりますよ~。

    ほ~んと、何とかしてもらいたいです。

  4. ise_vicious より:

    オレは、パソコンでも音楽聞くので、ボリュームマックスです・・・

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です