代打教師バランスミス

これは過去に書いたんだけど、

それではスタート!!

『代打教師・バランスミス』

いつもどおりの、なんでもない肌寒い冬の夜だった……。
そう、高校時代の仲間“ハウリンウルフ(ウルフ)”が僕たちバランスミスのオフィスに訪ねて来るまでは……。

深夜2時。仕事場兼住居でもある倉庫の中で、仕事を終えたバランスミスの二人がビール片手に笑顔で馬鹿話をしている。
「ユージロークーイズ!! 下は大火事、上は洪水、右手に花束、左手にピストル、唇に薔薇、さてなんだ?」
どうやら恒例のユウジロウクイズをしているようだ。
対面に座るポンが腕を組んで少し悩んだすえ言った。
「ん~、そうだな、すべてを総合的、且つ、論理的に考えた結果、答えは…」
「答えは?」
ポンがニヤリと笑った。そして、ついに真実を突き止めた探偵のように言い放った。
「答えは…、組織からすっごい大好きでエッチしたい女の抹殺命令を出されたベジタリアンの結婚詐欺師!!」
その指先はまるで「犯人はお前だ!」というばかりにユウジロウの顔をピッと指している。
「…そこまでは正解でいいや。じゃ、その名前は?」
ユウジロウは更に聞いた。
「名前ぇ~? ん~、ガンジー? いや、待てよ……、下が大火事? …三田村邦彦? 三田村邦彦だ!!」
「ブー、答えは三田村クンニ彦でしたぁ!」
「そっちかー!! やられた」
「はっはっはっは」
二人とも楽しそうにはしゃいでいた。しかし・・・
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
長めの沈黙が二人を包んだ。ユウジロウが先に口を開いた。
「つまんねーな………」
「あぁ、泣くかと思った。どーするよ? 明日からの仕事の依頼がまったくないし……」
「金もないしな……」
二人とも暗く、そして悲しくなった。
「しかも、暇だしな、なんか楽しいことはないもんかね?」
「よしきた! んじゃ第二問、下は履いてなくて、上はロングコート、右手にイチモツ、左手はガッツポーズ、そしてやはり唇に薔薇、さてなんだ?」
ユウジロウは懲りずに第2問目を出したがポンはもうすでに飽きていて投げやりだった。
「……お前の親父」
タバコに火を点けながら冷たく言った。
しかし、ユウジロウはポンのその言葉でいきなりキレだした。
「何だとこら!!」
いきなりキレだしたユウジロウにポンは戸惑った。いったいどうしてそこまで怒っているのだろうか? ポンにはまったく見当がつかない。するとユウジロウが信じられないことを言った。
「薔薇なんかくわえてねーよ!!」
薔薇なんて咥えてない・・・・・・・・・・・・・? つまり……。
ポンは自分の答えがかなり正解に近かったことにびっくりした。ユウジロウの怒りはまだ収まらない。
「親父は薔薇なんかくわえてない!! あの時だって咥えてなかった、でも、親父…、なんで俺のあれを咥えるんだよ……?」などとブツブツ繰り返している。どうやら過去と、十年前のあの日と戦っているようだ。
その様子を見てポンは自分の一言がユウジロウの地雷を踏んだということに気付いた。
「ゴメンゴメン、どこ謝ればいいかわかんねぇけど、とにかくスマン」
ポンはニヤニヤしながら謝った。
こんな、およそまともでないような会話を二人がしていると、けたたましくドアをガンガンと叩く音が聞こえてきた。オンボロ倉庫の為、倉庫全体がギシギシと揺れる。
ポンがユウジロウから逃げるようにドアに近づき、「誰だ?」と聞くと、懐かしい友人の声がドアの向こうから返ってきた。
「ワタシデス、ウルフデス、キョウシニナッタ、ウルフデス、ワタシ、ナヤンデイマス、セイトノココロ、ワタシ、ツカメナイ・・・」
バランスミスの二人は感動した。まだドアも開けていないのに悩みを打ち明ける男のそのガッツに。そのガッツはユウジロウを過去との、人前で服を脱ぐことができなくなったあの日との戦いから現実に引き戻した。
ドアの前のポンからユウジロウへ目配せで話す。
(開けるべきかな? それともこのままのが楽しいかな?)
ユウジロウも目配せで返す。
(ん~、開けない! このまま聞こう。そっちのがきっと愉快だ)
ポンが笑顔で頷き、そしてドアを開けた。
ユウジロウの気持ちは全く通じてなかった。ユウジロウはかなりショックだった。
後にこの時のことをポンはこう話すことになる。「え?そんなことあったっけ?」と・・・・・・。
ともかくユウジロウがいくら悲しくてもドアは開かれた。ウルフはオフィスに入るやいなや、何か言って欲しげな顔をしている。しかし、バランスミスの二人は意地の悪そうな顔をしながら黙っている。しかたなくウルフは自分から悩みを二人に話した。
ウルフはバランスミスのハイスクール時代の同級生で、何かにつけて二人を頼ってきた少し気弱な奴である。しかし教師になりたいと昔から言っていて、その夢を実現したすごい奴でもある。
そんなウルフの話は三十分ほど続いた。話を要約するとこうだ。
ウルフは今、とある私立小学校の教師であり、そこの生徒がウルフの話を聞かず、好き勝手やり放題だと言う。俗に言う「学級崩壊」だ。生徒達は挙句の果てにはウルフに嫌がらせを始めたらしい。その嫌がらせは、お決まりのごとく、始めは無視から始まり、そして物を隠す、変なあだ名を付ける等にエスカレートしていった。あだ名は イレイサー、つまり“消しゴム”だった。理由はわからないらしい。
そして、それは次第に暴力にまで発展したという。ウルフはそれを拒めないらしい。
しかし、バランスミスの二人がびっくりしたことはウルフは嫌がらせが、暴力に発展した時、むしろ、「しめた!!」と思ったということだった。実はウルフはその暴力に得も言われない快感を感じていて、今では暴力をふるわれたいがために学校に行っているらしい。お気に入りのいじめられ方は、月1で行われる一番大掛かりないじめられ方だと言う。それは、黒板の前に吊るされて「消しゴム!!」となじられながら、チョークやら、筆箱やらを投げつけられるというものだそうだ。“生きていて良かった”と心から感じるらしい。しかし、それでは自分は嬉しいが、子供たちがまともに育たない。いったいどうすればいいんだろうか? という内容の悩みだった。

真剣に悩みを打ち明けたウルフにポンは優しく言った。
「帰ってくれる?」
その言葉に噛み付いたのはなんとウルフではなくユウジロウだった。
「ちょっと待てよ! やろうぜ!」
「は? なにを?」
「教師だよ、代打教師だよ!! だってさ、俺ら暇じゃん! ウルフ! 明日オレらが一日教師やるから、それで悩み解決だろ?」
「イヤ、ワタシ、コノママキョウシ、ツヅケテイイモノカ、トイウソウダンニキタ、ソレズレテル・・・」
その言葉に噛み付いたのはポンだ。
「うるせえ、変態! 俺も教師やってみたい!! やろうぜ!」
こいつも馬鹿だった。ポンの目はいつにも増してキラキラしている。早速二人はウルフに学校を休むよう電話を入れさせ、そして、変わりの教師を学校に向かわせることを伝えさせた。相手の返答を待たずに切らせたのは言うまでもない。ノリで動く時の二人の手際のよさは見事としか言いようがない。
三人で落ち着いてソファーに座るとポンが言い出した。
「まずは時間割作りだな、ありきたりの国語だの、算数だのは意味ないしな。つまんねぇし」
「ですな、ポ・ン・せ・ん・せ・い!」
ユウジロウがニヤニヤとポンに言う。その一言でポンはデレデレである。体をクネクネとさせ、もうかなり気持ちが悪い。
「でへへ。ユージロー先生は何かいい案ない?」
ウルフは気付いていた。この二人がもう止まらないことを……。そして、会った瞬間から自分にとんでもない意地悪をしていることを。その意地悪に関してはウルフにだって意地があった。 決して自分からは言えない……。言うわけにはいかなかった。
ウルフはもうこの二人の成り行きを見守るしかなかった。この状態で……。

そんな事を考えているウルフを尻目に二人の話はまだ続いている。
「俺は愛についての授業をしたいな! そーだなぁ、切り口はキャッチーに戦争あたりからで、ん~、最終的にはいやらしい言葉をいっぱい言いたいかな」
ユウジロウは得意げにとんでもないことを言う。
「いいねぇ!! 俺は自由についてで行こうと思う。切り口はパンクに国を否定していくところからかな。んで、やっぱ、俺も最終的にはいやらしい言葉をいっぱい言いたいよね」
ポンは予想外なことにユウジロウの意見を絶賛し、後を追った。
「2時間目までは決定したな。あっ、あと、忘れちゃいけないのが、護身術の授業だな! 小学生ってだけで、危険はいっぱいだしさ! それはもはやテロみたいなもんだし」
「確かに、今は変態だの、快楽殺人鬼だの、はいては捨てるほど増えてるって、テレビでやってたしな、うん、その授業は必要だな……、あっ!! でも……」
ポンはそこまで言うとしばし黙った。ユウジロウはポンが何を思って黙り込んでいるのかわからなかった。だから、頭の中でハンバーグの作り方をひき肉の状態から順を追って考えていた。
ハンバーグが焼きあがる直前に再びポンが口を開いた。
「でもさあ、一つだけ問題があったわ…、護身術の授業じゃいやらしい言葉いっぱい言えないんじゃねえか?」
ユウジロウはハッとした。
「そうだな……、盲点だったよ…、うーん、でも、がんばってみようぜ! 最悪語尾に卑猥な言葉つけりゃ何とかなるしさ! あとさ、棒を使って護身術やるとかは? 棒だぜ! 黒くて太い棒!! いけるだろ!!」
「ユウジロウ! 冴えてるな!」
この二人の会話に、さすがにウルフが割って入った。
「チョットマッテ! オカシイデス。カンペキニ、ロンテンガ、ズレテマス!」
「ズレてんのは世の中の方だよ、周りを見てみろ! 理不尽なことだらけじゃんか? 世の中に合わせてウルフも汚れちまったな…」
ユウジロウがウルフに言い放った。ポンも哀れみの目でウルフを見ている。
「ゴメンナサイ、ワタシ、マチガッテタカモ・・・」
ウルフは汚れた自分を悔やんだ。世の中が狂っているからといって、それに合わせて自分も狂ってしまう必要がなかったことに今さら気付いた。
しかし、ウルフの言って欲しいことはそんなことではなかった。12月の深夜、薄い壁に囲われた暖房器具のないこの部屋はひどく寒かったのだ。まして教師として一定の収入をもつウルフには二人の生活環境に肌が合わない。だが、やはり、寒いからといって、今さら自分からそんなことは言えず、我慢して身体を震わせていた。
ウルフのそんな思いは無残に届かず二人は続ける。
「ウルフが黙ったところで、話を続けるか! んじゃ、四時間目は俺だな。んー、四時間目ってことは給食の前だよな? なんか懐かしいな! ほら、あげパンとかさ!!」
「あげパンか…、ユージロークーイズ!!」
唐突にユウジロウクイズ第三問が始まった。
「よーし、ドンとこーい!」
テンションが上がっているためポンもいつにもまして乗り気だ。そして、問題が出された。
「あげパンの中にはアゲ、アンパンの中にはアン、優しさの中には下心、スマップの中にはキムタクとかいる。世の中にはいろんな人がいる。避けようのない嫌なこともたくさん起こる。その中で、君は、ポンはいったい、どうやって生きるの?」
「……かなり難問だな、俺は…、俺はさ、色々間違うかもしれないし、いろんな人…」
「エ、ナンカヘンデス、ダッテコレクイズジャ・・」
ウルフが口を挟む。
「黙って!!ポンが今頑張ってるんだから!!」
ユウジロウはポンの必死さを守る為ウルフの発言を大声で制した。
ウルフは黙った。黙っているのにユウジロウはウルフの頭をおもいっきり叩いた。
ポンは続ける。
「いろんな人をイヤでも傷つけしまうだろう。俺だって人を傷つけたかないよ、でも、生きてる限りそれは避けられないんだと思う…、悲しいよね。でも、それでも、俺は、俺は、強く生きていきたいよ!! まっすぐにさ!!」
ポンは真剣な目でユウジロウを見つめている。ユウジロウもその真剣な視線を必死に受け止める。不思議と美しい光景だった。
ユウジロウの口が開かれた。
「ぶーーー!! ハズレー!! 全然駄目。犬以下。ウルフのちょい上くらい。マジ最悪だよ」
「まじで? まぁ、元々犬より上だなんて思ったことないからいいけどさあ、んじゃ正解はなに?」
あんな美しく見えていた光景がいっきに表情を変えて、ただの日常の一コマに戻った。
「正解なんてないよ。それは自分自身で決めるものだからさ!」
ポンは一瞬納得したが、すぐに疑問が浮かんできた。
「それだったら、俺のも正解じゃないのか?」
「んー、なんか駄目だった。う~んとね、むかつく。なんかのついでに死ねばいいとかまで思ったもん。まぁ理由はないけどね」
「そっか、理由がないんじゃしょうがないな…、うん。納得!」

数時間後。

静寂がバランスミスのオフィスを包んでいた。ユウジロウとポンが天使のような安らかな顔で寝ている。部屋の片隅ではウルフが体育座りをしている。時計は七時を指していた。
そろそろ学校に行かなければならない。ウルフは立ち上がり叫んだ。
「オキテクダサーイ、ガッコウイクジカンデスヨー!!」
二人が目が開いた。しかしまた閉じた。
ウルフはまた叫ぶ。
二人は目を開けた。ポンがダルそうに言った。
「うるさいよお前。勘違いしちゃ困るから言うけどさ、俺ら学校なんか行く気ないよ?」
ウルフは何を言われたかまったくわからないようだ。そこへさらにユウジロウがウルフにとっての氷の言葉を投げつけた。
「そうだよ、とっくに卒業してるし、しかもさ、すげー眠いし」
「デモ、キョウシヤルッテ・・・」
「チッ」っとポンが軽く舌打ちした後に言った。
「……俺たちは放任のすえ、自覚をうながすタイプの新しい先生みたいな感じでいくよ。これで満足したか?」
「あ、それいいね! それでも、ウルフみたいな変態よかマシだよな、はは。変態教師! とりあえず俺らは寝るから、おやすみな」
二人は静かに目を閉じる。
「ソンナ、ヒドイ、ヒドスギル…、ウワーーーーー!!!」
ウルフが暴れだした。ウルフにはわかっていた。この二人が飽きてしまったのだということを。
うるさくて眠れないため、イライラしていたポンがユウジロウに目配せする。
(言っていいか? 言えば多分収まる)
ユウジロウも目配せで返す。
(いいよ、この際だからしょうがねえ)
ポンがついに言った。
「ウルフ、とりあえず服着ろ」
ウルフの動きが止まる。そして、膝からガクガクと地面に崩れ落ち、静かに泣き始めた。
「ヤット、イッテクレタ、デモ、イマサライウナンテヒドイ、アサニナッタラ、フク、キヨウトオモッテタノニ・・・」
実は、ウルフは家に入る前に全裸になっていたのだ。その理由はバランスミスの二人を笑わせたかったから、ただそれだけ。しかし、全裸のウルフを見た二人はウルフの狙いに気付いた。二人は打ち合わせなどをせずに、ノリでそれに触れないでおこうと同時に思ったのだった。そんな時の二人の一体感はやはり尋常ではない。この手の意地悪めいたことはバランスミスの大好物だった。
ウルフが静かになるとポンは深い眠りについた。
ユージローは目配せが通じた喜びを噛みしめながら笑顔で素敵な夢を見ている。
そんな二人の片隅ではウルフが全裸でうずくまって泣いている。シクシクと泣いている。
そんな冬のある日の出来事だった。

「俺は……、俺は教師である前に一人の男なんだっ!!!」
なんて主張した日には今のご時世どんな非難を浴びせられるものかわかったものではない。そのひと言で職を失うこともあるだろう。なぜなのだろうか?
教師はそれほど完璧でなければいけないのだろうか? 教師はコンビニでエロ本を立ち読みしてはいけないのか? 白昼堂々と交差点のど真ん中で自作のポエムを声高に披露してはいけないのか? いかなる場合も「~でちゅ」とか「~くだちゃい」とか言って、イってはいけないのか?
そもそも教師は人間として優れていなければならないのだろうか? 一体、優れた人間とはなんだ? ミスのある人間に教わるものは何もないとでも言うのだろうか? 僕たちがあの頃教わったこと。それは、教師としての彼等より、一人の人間としての彼らに教わったものの方が、はるかに心に残ったのではないだろうか?
あの日、十時間寝た後に感じた冬の日差しは暖かかった。太陽はいつだって僕達を平等に照らし、焼いてくれる。それが僕たちに気付かせてくれた。
そう! 必要なものは自分の周りにあるものだ。それに気付いては忘れ生きてゆく。大切なのは、よく見ること。きっと誰かに教わるものではない。学校にだって行くことはない。もうわかってるはず。数字や経験で僕たちは計れないことを。つまり、教師だろうがなんだろうが人間同士が向き合うとき、肩書きなんて必要ない。いま、この瞬間、何を伝え何を感じどう昇華するかが重要なんだ。それがすべてなんだ!!

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代打教師バランスミス” に対して 4 件のコメントがあります

  1. 西江ひろあき より:

    読みましたよ。
    なかなかいいじゃないですか!
    女の子が出てくればもっと良かったかも?

  2. 伊勢ビシャス より:

    こんなくだらないの読んでもらってすいません!
    2、3年前に書いたやつです!

  3. 西江ひろあき より:

    くだらなくなんかないじゃないですか!
    雰囲気があってよかったですよ!

  4. 伊勢ビシャス より:

    ありがとうございます!
    馬鹿ですいません☆

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